スポンサーサイト

0

    一定期間更新がないため広告を表示しています

    • 2017.06.25 Sunday
    • -
    • -
    • -
    • by スポンサードリンク

    リクガメの記憶力と近年の研究動向

    0

      この記事では、リクガメを使った動物学の記憶研究の動向と、最新研究を紹介したい。

       

      まず、動物学でリクガメが研究されるようになった背景を説明し、次に近年の研究動向を紹介する。その後、動物学者の福岡伸一氏の記事を手がかりに、リクガメの記憶遺伝についても、ほんの少し考えてみたい。

      リクガメの動物行動学の研究は、主にアカアシガメが使われているため、アカアシキーパーは少しテンションが高まる内容かも知れない。

       

      動物学とリクガメ研究

      より良い理解のために、最初に、簡単に動物学について説明する。

       

      動物学は、古代ギリシャのアリストテレスを祖とする生物学の一分野で、ヒト以外の動物の観測をベースに発展してきた学問といわれている。

      哲学者の名前を出すと身構えてしまう方もいるかもしれないが、我々の周囲のあらゆる学問は、古代ギリシャのプラトンとアリストテレスの哲学の派生としてきて生まれてきたもので、「神が創造した世界」の一端をどう理解するかが出発点となっている。

      プラトンは、特殊な才能・能力のある者のみが理性を使って世界の本質を知ることができると考えたのに対し、アリストテレスは、特殊な能力がなくとも、観測・観察を通して、神の創造する世界の一端を知ることができると考えた。

       

      生物学だけでなく、物理学や経済学など、目に見えない本質を前提としない、観測・観察をベースとするあらゆる学問は、アリストテレスの哲学から派生してきた。

      学問が古代ギリシャの哲学、「神が創造する世界」の理解から出発した証拠として、英語圏では神学と法学、医学を除く学問の博士号のことをPh.D.(Doctor of Philosophy)、哲学の博士と呼んでいる。

       

      ちなみに、哲学というと、精神と命を削りながら研究するイメージを持つ方もいるかもしれないが、それは20世紀の学者(ニーチェなど)のイメージで、名誉と経済的成功を求めているからの苦悶・葛藤であって、旧来の哲学・政治思想は、世俗から切り離されたお坊さんの学問である。名誉と経済的大成功のために精神と命を削り苦闘するお坊さんを、みなさんは見たことはないはずである。

       

      さて、観測をベースに発展した生物学が、動物の規則的な習慣を研究するのはいわば必然で、ラテン語のethos(エートス、習慣)の学問として、エソロジー(ethology)、日本語名で動物行動学が確立した。

      刺激を受けたあと個体の反応(反射)、行動の由来(本能か学習か)、個体の他個体への影響(社会行動)など、動物のあらゆる行動を観測し、動物の理解に向けた研究が行われてきた。

      京都大学の霊長類研究所のチンパンジーの知能実験がしばしば報道されるが、動物の知的能力の研究は、こうした動物行動学の進展とともに行われるようになったのである。

       

      動物行動学でリクガメが研究されるようになったのは、主に2000年代になってからである。

      欧米のアカデミズムの世界では、論文数が出世の評価指標なのだが、リクガメを対象とする研究者が誰もいなかったために、誰かが目をつけたのだろう。

      グローバル化の進展とともに、世界中の研究者が大学のポストを求めて出世競争をするようになった。競合研究者が多く論文を量産しにくいチンパンジーやネズミ、イヌではなく、リクガメに活路を求めた研究者が出てきたのだと考えられる。

       

      アカアシガメが実験動物に採用された理由を一言で言ってしまえば、最初の研究者が使用したからだと思われる。

      新規開拓分野は研究が評価されにくいので、先行研究がある分野で研究が蓄積されていくことは、動物行動学に限らず、よくあることである。

       

       

      リクガメの記憶研究の近年の動向

      一言でいってしまえば、約50年前に主流だった、視覚情報と短期記憶、長期記憶の研究が、アカアシリクガメを対象に行われている。ある程度成長した繁殖個体を訓練し(動物に限らず、学習能力を観測する研究では、真っさらな状態が基本)、学習した記憶を頼りに行動するかを実験するもので、今日ではほとんど顧みられない、基礎研究といってもよいだろう。

       

      そうはいっても、研究としての価値がないわけではなく、カメの記憶・知能の解明には非常に重要な研究である。

      2017年1月に『BIOLOGY LETTERS』に発表されたアメリカのリンカーン大学のFrancesca Soldati氏の研究チームによる「Long-term memory of relative reward values」では、貰える餌の大小と嗜好性を、視覚情報と関連させて学習させると、18ヶ月後も、学習した視覚情報を頼りに行動することが明らかにされている。

      この研究は現在も継続中で、最新動向をいち早く知らせるLetterという形で発表されており、今後の進展が楽しみである。

       

      最新の記憶研究とはあまりにもかけ離れているために、日本の若手研究者は見向きもしないかもしれないが、カメに関心があり、研究業績を残しやすい点では、よい研究対象かもしれない。

      もっとも、理学分野の場合、基本的にユニットで研究をするため、そのような選択の自由はないと言われるかもしれないが、世界の権威になるには競合研究者がいない道に進むのも、一つの手段である。

       

       

      記憶と遺伝について

      2014年の記事だが、動物学者の福岡伸一氏の「記憶と遺伝」の記事は、カメの知能と進化の歴史を考える上で、非常に興味深い。

       

      この記事のアメリカのエモリー大学の研究チームが解明した事実によると、ネズミに覚えさせた危機体験は、子世代に遺伝はしないものの、同危機に対しより敏感になり、すぐに学習するようになるらしい。

      それは、2014年時の生命科学のトレンドだったエピジェネティクスによるもので、DNAの働きを調整する情報がDNA情報には含まれており、それが受け継がれるからだそうだ。

       

      DNAの調整情報が遺伝蓄積されることは驚きで、知能が優れていない生き物が危機を回避出来る理由も、このエピジェネティクスから説明できそうである。

      アカアシガメの長期記憶が、私たちの思っている以上に優れていたとしても、優れた知能があるとは言い切れない部分がある。そんなカメが長い間生き残ってきた理由は、エピジェネティックによって、危機に対する学習能力が優れているからではないだろうか。

      もっとも、その蓄積情報量がどの程度なのか、学習量・危機経験が多いと孫の代の学習能力は更に高まるのか、未解明の部分が多いが、想像すると少し楽しくなるのは私だけではないだろう。

      エピジェネティクスの最新研究動向は未調査なので、関心のある方はご自身で調べて頂きたい。

       

      次回の記事では、アメリカのカメのトップブリーダーを紹介したい。

       

      Copyright (C) 2013-2017 ちゃかぽん(Sug) All Rights Reserved.

      JUGEMテーマ:カメ全


      スポンサーサイト

      0
        • 2017.06.25 Sunday
        • -
        • 21:19
        • -
        • -
        • by スポンサードリンク

        コメント
        こんにちは!
        先日はお目にかかれて大変嬉しかったです!是非今度はさらに深くアカアシガメ(のみならずカメたち)の魅力について語り合いたいものですね♪
        今回の記事も大変興味深く拝読しました
        僕は実は生物学を学びたかったのですが、算数が若干苦手だったため、対象を人間に変えざるを得なかったという背景があります
        ですから動物学についてもローレンツの「ソロモンの指輪」、レヴィストロースの「悲しき熱帯」がベースにありつつ、ほかは雑多な言説の寄せ集め程度の知識や論法しかしりません
        ですが、今回の記事、非常にスルスルと僕の中に入ってきて、思わず動物学のテキストをポチッとしたくなりました(^_^;)

        アカアシガメは蓄積があって文献も検索しやすく、僕のような愛好家としては非常に嬉しいです♪
        アカアシガメについても、動物学についても、紙媒体でもネット上でもよい文献があったら是非教えてくださいm(_ _)m

        ブリーダー紹介も楽しみにしております!
        おはようございます!
        いつもコメントをいただき、ありがとうございます。

        生物学を学びたかったのですか!?
        わきんなさんが、人間を選んだおかげで、救われている方々が沢山いらっしゃるでしょう。良い選択だったのだと思います。

        私も動物学に関して、ほとんど知識がありません。
        この記事を書く前に、日本の動物学研究者の論文を何本か読んで、大正期から京都大学を中心に日本の動物学研究が行われてきたことも知りました。

        子供の頃は読書が苦手だったので、動物に関する児童書もほとんど読んでいませんでしたし、現在も「一般的な読書」が苦手です。笑い
        寝ている時間以外の大半の時間は、本や論文、研究資料を読んで勉強していますが、小説の類いは直ぐに眠くなります。理由はよくわかりません。
        ですので、本棚は何本もありますが、小説はカラーボックス一つ分しかありません。

        中公新書の『ウニはすごい バッタもすごい』という本は、生物学・動物学に興味がある方がとても楽しめそうな内容でした。

        近年の出版不況の影響で、研究者が新書で本を出すようになりまして、新書にも良本が沢山あります。
        社会的地位の高い方は、低所得者層の方々よりも「日本社会の将来」を考える時間的、精神的、金銭的余裕がありますから、手にとっていただきたいです。
        • ちゃかぽん
        • 2017/05/28 11:14 AM
        コメントする








           
        この記事のトラックバックURL
        トラックバック

        PR

        calendar

        S M T W T F S
        1234567
        891011121314
        15161718192021
        22232425262728
        293031    
        << October 2017 >>

        selected entries

        categories

        archives

        recent comment

        • リクガメ飼育の模索
          ちゃかぽん (06/25)
        • リクガメ飼育の模索
          わきんなますた〜 (06/24)
        • アメリカのカメブリーダー、クリス・レオン氏の紹介 "An American top Chelonia breeder, Chris Leone"
          ちゃかぽん (06/14)
        • アメリカのカメブリーダー、クリス・レオン氏の紹介 "An American top Chelonia breeder, Chris Leone"
          ポタカ (06/14)
        • アメリカのカメブリーダー、クリス・レオン氏の紹介 "An American top Chelonia breeder, Chris Leone"
          ちゃかぽん (06/12)
        • アメリカのカメブリーダー、クリス・レオン氏の紹介 "An American top Chelonia breeder, Chris Leone"
          カメさん日記 (06/11)
        • アメリカのカメブリーダー、クリス・レオン氏の紹介 "An American top Chelonia breeder, Chris Leone"
          ちゃかぽん (06/07)
        • アメリカのカメブリーダー、クリス・レオン氏の紹介 "An American top Chelonia breeder, Chris Leone"
          わきんなますた〜 (06/07)
        • ビルマホシガメの成長記録 + 甲羅成長のメカニズム、結石予防
          ちゃかぽん (06/05)
        • ビルマホシガメの成長記録 + 甲羅成長のメカニズム、結石予防
          まころん (06/05)

        recommend

        自民党―「一強」の実像 (中公新書)
        自民党―「一強」の実像 (中公新書) (JUGEMレビュー »)
        中北 浩爾
        自民党の「強さ」はどこにあるのか?
        その「強さ」は盤石なものなのか?

        自民党内外の構造を分析した、政治学者による優れた研究書。

        自民党政権は今後もしばらく続くと著者は評しているが、果たして・・・。

        recommend

        腐りゆく日本というシステム
        腐りゆく日本というシステム (JUGEMレビュー »)
        リチャード・カッツ
        日本の経済・産業構造の問題点は、バブル崩壊以前から放置されてきた。

        1999年の本だが、日本経済の問題の核心を突いた隠れた名著。

        金融緩和、調整インフレ、慢性的個人消費の落ち込み。

        あれ?これ最近の本?と驚くこと間違いなし。

        子供・孫たちが生きる日本の将来を真剣に考えるきっかけとなる一冊。

        recommend

        老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路 (講談社現代新書)
        老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路 (講談社現代新書) (JUGEMレビュー »)
        野澤 千絵
        これから家を買う方、建てる方、その場所で、その物件で、本当に大丈夫ですか?
        水道・ガスのインフラが、数年後には、なくなるかもしれませんよ?

        家を買う前の必読書。

        links

        profile

        search this site.

        others

        mobile

        qrcode

        powered

        無料ブログ作成サービス JUGEM

        フリースペース